「『ノンフォーマル学習』で学位取得?」職業経験の成果評価に関するフランスの取り組み
名古屋大学高等教育 夏目達也先生への先取りインタビュー
――京都レッツラーン大学校の取り組みは、京都府の緊急雇用対策事業のNPO提案型事業として進めてきました。グループ学習を上手くコーディネートして自律的な学びを社員教育や求職者の方の教育訓練に生かせればと考えています。キーワードはノンフォーマル・ラーニング、非大学型高等教育を挙げています。このタイプの学習機関や制度はヨーロッパが進んでいると考えています。イギリスの取り組みは数多く紹介されています。私見ですがイギリスとは異なるコンセプトをフランスはもっていると考えていますが、その取り組みについては、あまり紹介されていません。そこで、フランスの教育施策を研究されている夏目先生にぜひシンポジウムでお話いただきたいと考えていました。
夏目先生
フランスではインフォーマル、ノンフォーマル・ラーニングの成果を大学の学位として認定することが進んでいます。それに対して学位の質保障がどうかかわるのかが問題です。「就学しなくても、必要な能力が獲得できていれば学位はだす」という方針がフランスです。ほかの国でも学習成果を大学の単位として認める事例はありますが、フランスは先進的です。
―― アンヌ・マリーシャロー女史、パトリック・ベルキン先生を呼んで2009年に京都で国際シンポジウムを開催しました。特にアンヌ女史からフランス国立工芸院について詳しくお話していただきました。
講演会の資料(京都レッツラーン大学校ホームページ)
生涯教育による雇用可能性の向上―ヨーロッパのアプローチ
Anne-Marie CHARRAUD
夏目先生
アンヌ女史は日本に研修で来ていたことがあるそうです。私もアンヌ女史のフランスのオフィスにお邪魔してレクチャーを受けたことがあります。問題意識が非常にクリアーな方ですね。
フランスの大学は民衆教育や成人教育の各機関と連携がなされています。有名なパリ大学の印象からアカデミズムの強い特色をもった高等教育だとの印象がありますが、それとは別の側面も持ち合わせているようですね。簡単には説明できない複雑な教育制度なのですが。なぜでしょうか?
――労働組合が強いことも影響しているでしょうか。26歳以下の若者は基本的に専門教育を無償で受けられるという決まりは産官学が密接に連携しているからこそできるように思います。これはヨーロッパの移民の問題が関係しているとも考えられます。移民のひとたちの社会的地位をどういう風に引き上げるか。資格を得るための学費が払えない者にも、その能力がみとめられれば引っ張り上げることができるかもしれないという考えがあると思います。
夏目先生
名古屋大学高等教育研究センターの中の議論でも、フォーマルな教育機関の改善だけでは、学生の学習効果を上げるうえで限界があるのでは、という意見もでます。フォーマル教育以外の場での経験、生活経験が貧困になっているように思います。そうであるとすればインフォーマルをどういう風に位置づけておけばいいのか、と議論になります。
――名古屋大学高等教育研究センターでどんなことをしておられますか?
(夏目先生から名古屋大学高等教育センターに関連する書籍をご紹介いただきました。)
『成長するティップス先生―授業デンザインのための秘訣集』(玉川大学出版部、2001)
『大学教員準備講座』(玉川大学出版部、2010)
『大学の教務 Q&A』(玉川大学出版部、2012)
名古屋大学高等教育研究センターのホームページには、出版物の紹介をはじめ、高等教育研究の情報コンテンツが満載です。
名古屋大学高等教育研究センターHP:http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/
――大学まで行かないと専門職につけないのでしょうか。大学に行けない人たちはどういう思いでいるのでしょうか?景気が悪い状況で、次の親世代の子どもの中には、大学に行かせられなくなる場合も増えてくると思います。大学の代わりとなる学習機会の構築を考えていかないといけないのではないでしょうか。
夏目先生
能力があっても経済的理由等で大学に進学できない人は、今後増える可能性があります。彼らに、大学教育の機会を保障するか、それが難しい場合には、インフォーマル学習などの多様な学習機会を通して獲得した能力をどう認定するかが重要な問題の一つになってくると思います。
――今回のシンポジウムの論点のひとつもそこにあると思います。ノンフォーマル・ラーニングの認証も行なっており、学位も出しているフランス国立工芸院に夏目先生も行かれたことがあるそうですね?
夏目先生
ノンフォーマル・ラーニングの認証の説明会見学会に参加しましたが、みなさん熱心に耳を傾けたり、質問をしていました。
ノンフォーマル・ラーニングについては、大学も社会人のための継続教育のセクションがあり、支援をしています。その一方で、ノンフォーマル・ラーニングに対する理解不十分な状況もあります。就学なしで学位を出せば学位の安売りになってしまうのではないか、という意見です。
――京都レッツラーン大学校が目指しているひとつの形として会社の同僚5~6人で集まってお昼休みや終業後に自主的に学んでいき、その学習成果がなんらかの形で企業内であったり、社会的に認知される仕組みです。やがては、勤務時間として学習活動が認められる、そんなイメージをもっています。このノンフォーマルな学習の視点は大学教育にもプラスの影響を及ぼすと考えています。学習者中心の授業づくりという視点です。例えば、100名以上の多人数授業で学生1人ひとりの学修時間とその質保障を担保するためにどのようなデザインの授業にするとよいかという点です。
夏目先生
学生自身が気づかないとどうしようもないということですね。そこから自分でやっていける。「教えれば教えるほど学生は勉強しなくなる」のではないかとも考えます。
「教えないことの教育力」を見直す必要があると思います。最短距離を行く学び方の能力は非常に高いものをもっています。ただ、全てに正解があると思っている傾向があります。学び感が貧困になっていることを危惧しています。
高度経済成長時代は大学に行けば仕事があった。それでも日本は失業後進国で、海外の人と話していても「まだ10%か」といわれるが、全体の3分の1が非正規雇用、おそらく若い人の2分の1が非正規で働いている状況にあると思います。そのような職場では正規雇用の仕事も多忙になり、不安定になっていますね。シンポジウムでは、今日お話した点を踏まえてフランスの職業教育訓練の制度ではどのように取り組んでいるのか簡単にご紹介できればと考えています。
――ありがとうございました。当日のお話を楽しみにしております。
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